たまにはエッセイのようなものを
ジョンロブのフィリップ2と私
もう既に記事にして1年以上が経っている、ジョンロブのフィリップ2。
ジョンロブといえば、シティかフィリップが1足目、もしくは靴がお好きな方は、ウィリアムから、という方もおられるかもしれない。(私は縁があったのがたまたまウィリアムだった。)
さておき、Philip2は当たり前だが完成度の高い靴だ。現行の定価が見合うものかどうかは、いつの世も言われるものであるが、高級紳士靴を代表する1足であり続けるのは今後も変わらないであろう。

私も一介の革靴好きとして、いつかは手に入れ、履いてみたかった1足であった。
とはいえ私はエグゼクティブという訳ではないので、必然、路面店で最上級のサービスを受けて購入、というわけにはいかない。
靴好きとしてありあまる情熱を使い、日々張っていたアンテナにお買い得品が引っかかったタイミングと、身辺の都合が重なったことにより、ようやくその時がやってきたのである。
しかしその顛末たるや、格安品を買うとはどのようなことなのかをしっかり味わうことになった。

身の丈に合っていないのだから仕方ないと言われればそのとおりだが、手の届くフィリップは手が届くなりのフィリップなのである。
しかし、自分はこの靴にケチをつけるだけの権利がある人間だろうか?私にだって当然に欠点もあれば短所もある、どこにでもいる人間、もとい靴好きである。格安でジョンロブのフィリップを捕まえておいて、いつかはつくであろうキズのことで文句を垂れるのは、筋違いであるような気がした。
傍目に見ても、この靴は買われては返品され、というのを繰り返してきたように見える。押しキズを始め、未開封とは思えぬ箱の傷み具合、付属品のやや雑多な封入具合が、誰からも必要とされてこず、往く当てのない哀愁を帯びていた。
靴に救いもなにもないかもしれないし、メサイアコンプレックスかよと自嘲しつつも、この靴を履いていこうと決めた。
フィリップのシワ入れに失敗
しかしこの靴にはもう一波乱……取るに足らないと言う方も多いかもしれないが……があった。
靴のシワについて、ほどほどに気になるほうだ。なんだかんだと言うが、良いシワだなぁと思える靴は履いている間に何度もそう思うし、微妙なシワだなぁというシワは、消えないワイシャツのシミのようにいつまでも気になってしまう。
よって、この靴を履き下ろすときには決めていた。シワ入れを行なって、理想のシワにするのだと。2本、並行に近い形で入ってくれれば嬉しい。
そうしてペンを使ってシワ入れした結果は、すこぶる良好だった。限りなく理想に近いシワが入った。全ては順調である。
でもその日、1日履いている中で驚いた。
シワの形が変わっているではないか。
あれだけ並行に近い2本線が入っていたのに、気がつけば1本新たなシワが入りZ形になっていた。

一般に、1度入った革靴のシワの形はもう変わらないとされる。
だからこそのシワ入れの儀だし、だからこそ靴好きは履き下ろしに特別な思い入れがある。
しかし、結果はこうである。
シワ入れをしたばかりに、無駄にシワが多くなってしまった我がフィリップ。
なかなか思い通りにならないものである。
フィリップと「ままならない人生」
そこから1年近くが経つ。靴棚で出番を待つフィリップを見るたびに「シワがなぁ」というボヤキに近い気持ちがあった。
それでも最近、この認識を少しずつ改めつつある。
理想のシワを求めてシワ入れをしたのに、思い通りにはならなかった。でもその不満は、どこか自分自身の人生と重なる気がしてきたのだ。
今までの人生を振り返れば、すべてが思い通りにいくことなんてほとんどなかった。
思いがけずもたらされた不運に右往左往する一方で、望外の出来事に心躍るなど、思い返せばさまざまな「予定不調和」があった。
しかし、そういった、自分意思だけでままならないものこそ、人生の妙味なのではないか?
思いがけない出会いにこそ、予想もできなかった出来事にこそ、人生の味わいが潜んでいる。
だとすれば、思い通りにならなかったフィリップのシワは、それこそが、ままならない人生を象徴するように思えてきたのだ。

人生を楽しめるかどうかは、きっと、思い通りにならなかったものをどう受け止めるかにかかっている。
その象徴として、このシワを愛せるかどうかは、人生に対するスタンスを問われているように思う。
フィリップのシワは、まぎれもなく自分の足が刻んだものだ。
思い通りではないが、たしかに自分の一部であり、選んだ道の結果である。
このフィリップのシワを愛せるなら、人生だって愛せる。
つまり、フィリップは人生。
雨上がりの1日、ひさびさに履こうとフィリップを靴棚から取り出す。
気づけば、購入当初に気になっていたキズも、ほとんど目立たなくなっていた。

今日のモディファイ!
そろそろ実年齢的にもこのくらいのテンションの文を書いたほうが良いのでは?と思うこともしばしばなのですが、どうなんですかね?
初めまして。インスタではフォローいただきありがとうございました。
ご記載されている通り、私もブログの書き方というか、記事の内容は変化させないとなあと思っています。
ブログをやられている方はずいぶん減ってしまったので、是非是非よろしくお願いします。
まるすけさま
コメントありがとうございます!まるすけさんに比べたらまだまだブログ若輩者ですが、こちらこそどうぞよろしくお願いいたします!
どうしても始めたころと同じテンションで書き続けるのは難しいと感じています。読者の方が求めているものはなんだろな、と思いつつも書けるものしか書けないですし、「所詮はオレのチラ裏」という革靴ブログの先輩の言葉を頼りに今後もやっていくつもりです!
こんにちは。大変興味深かったためコメント失礼いたします。
私もドレスについては履きジワが気になる質です。(カジュアル用は本当にどうでも良いのですが…)やはりシワもその靴の美しさを表していると思うのです。
賛否両論ある新品時のシワ入れですが絶対に行ってしまいますね。。。サイズ感が間違いなくとも思い通りにならないこともある、結構奥が深いことと思っております。そして当方ブルジョワでないのですが、気に入ったシワが入らなかったらどんなに気に入っていても手放してしまうくらいで…。
ぜひ、もでぃふぁいど!さまのドレスでお気に入りのシワが入った靴を拝見できれば幸いでございます!
JRさま
コメントありがとうございます!
会心のシワが入った靴があると、理想も高くなりがちですよね。私もこのフィリップはこの1年相当悩んできましたが……笑
でもこればかりは足の形と木型、デザインの相性だったりするので難しいと諦めつつあります。
個人的に良いシワが入った例は、下記にて写真がまとまってますのでよろしければご覧ください!モカ系は得意みたいです。逆にプレーンやキャップ系は苦手です。
https://modified.jp/%E9%9D%A9%E9%9D%B4%E3%81%AE%E3%82%B7%E3%83%AF%E3%82%92%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%8B
久しぶりにコメントしに参りました!いつも楽しく拝見しております!
個人的にはいつもの、適度に脱力した氏の書き口が大好きなので、今まで通りが良いッ!と思いつつ、たまにはこうした落ち着きと味わいのある記事もあった方が無理せず続けられるのかなーとも思います。つまりどっちにしても読者は着いていきますのでご安心ください!
私はもっぱらカジュアル使いが主なので、皺入れの儀を行ったことは無いですが…ジョンロブクラスの靴になってくると、皺入れの重要性は増すのでしょうか。皺入れに関しては永遠のテーマですよね
服の細道さま
いつもありがとうございます!今日の更新は何事もなくいつものテンションなので、完全に気分次第になりそうです。だんだん落ち着いていくのかもしれませんが、一生このままの可能性もあります。笑
シワ入れは皆さん流儀があるのもまた奥深いですよね……!!